タバコガと暮らした日々
突然ですが、みなさんはピーマンを切っていて虫に遭遇したことがありますか?
わたしは最近、料理中に切ったピーマンの中にちいーさないもむしが住んでいるのを見つけました。直感的に「この子がおとなになる様子を見たい!」と思ったわたしは、そのいもむしを飼育することを決意しました。今日は、その虫と暮らした約三週間の軌跡を振り返りたいと思います。(虫が苦手なかたにはごめんなさい。)
【飼育開始~脱皮まで】
このいもむし、調べてみるとタバコガという蛾の幼虫らしいということがわかりました。タバコガは、トマトやピーマン、ナスなどのナス科の植物を食べる大害虫として知られているようです。
わたしはこのタバコガをピーマンと一緒に容器に入れて飼っていましたが、とにかくよく食べる!そして成長が早い!さすが、大害虫と言われるだけあります…。ときどき休憩しつつも、一日中ピーマンをかじかじしてみるみる大きくなっていきました。
▲8月5日。飼育を始めて間もない頃です。
▲8月6日。種の近くの白っぽい部分もおいしいようで、よく食べます。食べた分、フンもたくさん出します。
どんどん成長するタバコガを眺めるうち、やがて脱皮の瞬間に立ち会いました。
▲8月8日。飼育開始時には体長1センチ程度しかなかったタバコガですが、このときには体長2.5センチ程度にまで成長していました。ピーマンの色とよく似た、淡い緑色の体がきれいです。しかしこの写真を撮った数時間後、タバコガはピーマンを食べるのをやめ、じっとして動かなくなってしまいました。いつもと違う様子に不安を覚えながら見守っていると…
▲じっとしていたタバコガが全身を波打たせながら、脱皮を始めました!写真は、脱皮が終わった後に残った古い皮です。脱ぎ捨てられたズボンのよう。
【さらに成長してさなぎに】
脱皮を終えたタバコガ、さらに食べる量が増え、成長を続けていきます。
▲8月11日。このときにはもう、体長4センチぐらいになっています。
初めて出会った頃とは比べものにならないぐらい大きくなったタバコガ。相変わらず、ピーマンを一生懸命に食べては休み、食べては休み…を繰り返す毎日でしたが、あるとき転機が訪れました。
タバコガが、それまで片時も離れることのなかったピーマンから離れ、飼育ケースの中をぐるぐると、休むことなく歩き回り始めたのです。まるで、大急ぎで何かを探しているかのように。よく見ると、体の色が少し茶色っぽくなっています。
実はタバコガは、さなぎになるときに土へ潜り、土のなかでさなぎ時代を過ごす蛾です。このことを事前に調べていたわたしは、あたふたと動き回るタバコガ幼虫の様子を見て、「この子はいま、さなぎになりたいんだ!!」と気が付きました。
そして急いで土を敷き詰めたケースを用意し、その上にタバコガを置いてみました。するとタバコガは、すぐに土の中に頭を突っ込み、ものの2分程度ですっぽりと土の下へ入ってしまいました。なんたる早業!そして潔さ!
【羽化、そして別れのとき】
タバコガが土に潜ったのは8月12日のこと。それからしばらくは、タバコガが無事に成虫になって地上に出てくるのを待つ日々が続きました。
土の中でタバコガがちゃんと元気に過ごしているか心配になり、土を掘り起こして様子を見てみたくなるときもありましたが、あまりじゃましてはいけないと思ってぐっと我慢しました。することといえば、土が乾いてきたら霧吹きをかけてやることぐらい。あとはただひたすら、待ちます。
そしてついに…!
▲8月23日、羽化してきた成虫とご対面。やっぱり、幼虫→さなぎ→成虫という変化は本当にすごい。さなぎになる前と後では、全く別の生き物のようです。
他の多くの虫たちにも言えることだと思いますが、タバコガが成虫になってからの寿命は長くはありません。このまま飼育ケースの中で命を終えるよりも、残りの時間は外の世界で過ごしてほしいと思い、わたしは無事におとなになったタバコガと一緒に外へ出かけました。
▲別れ際の一枚。とってもりりしい姿で、美しい目をしています。ありがとう、さよなら、元気でね。
偶然の出会いから始まった、約三週間にわたるタバコガとの暮らし。
タバコガから教わったことはたくさんあります。
集中して食べ、しっかりと休み、集中して今を生きること。
脱皮したての体はみずみずしくて、生まれたての赤ちゃんみたいだってこと。
幼虫から、さなぎになって、無事に成虫になるのはとても大変だということ…。
素敵な時間をくれたタバコガに感謝しながら、ゆっくりとお別れをしました。
もう二度と会うことはないけれど、どうか、残りの生を全うしてください。